~アメリカ西部5州政府観光局 元局長・星野 修氏 特別寄稿~
特別寄稿者プロフィール
星野 修(ほしの おさむ)
アメリカ西部5州政府観光局 元局長
(ユタ州・アリゾナ州・ニューメキシコ州・ワイオミング州・サウスダコタ州)
1967年に渡米。大学では商学部マーケティングを、大学院では行政学を専攻。
卒業後はユタ州政府立法府にて財務分析官として予算法案の作成に携わり、その後、ユタ州政府経済開発省国際部ディレクター、ユタ州政府観光局副局長として国際マーケットの開発に尽力した。
「グランドサークル」をはじめとする「自然回帰線の旅」シリーズを日本市場へ紹介し、長年にわたりアメリカ西部観光の普及に大きく貢献した。
星野 修氏による特別寄稿
ザイオンの人気の秘密を探る
人気急上昇のザイオン
アメリカ大自然の宝庫といわれるグランドサークルの中で、一番の人気といえばやはりグランドキャニオンだ。2025年の年間訪問者数は約443万人で、全米国立公園ランキングでは4位に入る。しかし、その人気を上回る勢いの国立公園がある。ザイオン国立公園だ。
ザイオンの人気は今も高く、2025年には約498万人が訪れ、全米国立公園ランキングで2位となった。グランドサークルを旅するなら見逃せない存在となっている。
アクセスの良いザイオン
アメリカの魅力の一つは、大自然へのアクセスが容易だということである。どの国立公園をとっても、そこへは立派な舗装道路が設けられている。ザイオン国立公園にいたっては、その位置自体が便利な所にある。
ラスベガスから北へインターステート・ハイウェイ(I-15)を走ると、約2時間弱でセントジョージの街に着く。セントジョージの北から9号線でザイオンまでは約1時間弱。つまりラスベガスから車で約3時間という便利さだ。ちなみにラスベガスからグランドキャニオンまでは4時間半ほどかかる。
セントジョージには現在、セントジョージ・リージョナル空港があり、ソルトレイクシティ、デンバー、フェニックス、ロサンゼルス、ダラス・フォートワースなど主要都市との便が運航されている。時期によってはシカゴ便が設定されることもある。路線は季節や航空会社の運航計画で変わるため確認が必要だが、西海岸や周辺都市から一気にセントジョージへ入ると、ザイオンはさらに近く感じられる。
多彩な顔を持つザイオン
ザイオンはグランドサークルの中にある国立公園のうち、最も緑が多い国立公園ではないだろうか。公園中心部となるザイオンキャニオンの中をバージン川が流れ、それに沿ってコットンウッドやメイプルなどの木々が茂る。湧き水も豊富で、ザイオンキャニオンの中には湿地帯もある。
ザイオン国立公園の面積は日本の淡路島に相当するもので、アメリカにおいてはそれほど広い公園ではない。ザイオンの最も低い所は標高1,117m、最も高い所は2,660mある。従って公園内の凹凸は相当なもので、谷底から巨大な岩山の頂上までの標高差は1,500m以上もある。
谷底は緑に潤う環境にあっても、標高が1,900m辺りまで上がると乾燥した砂漠気候となる。ザイオンを自然環境別にわけると、水辺地帯から砂漠、森林、針葉樹地帯と4つの顔を持つ。こういった環境に生息する動植物は多種多様だ。ザイオンには78種以上の哺乳類、291種の鳥類、37種の爬虫類・両生類、8種の魚類が生息し、植物は1,000種以上に及ぶ。
四季を満喫できるザイオン
春のザイオンキャニオンは実に美しい。新緑で覆われたキャニオンは鮮やかさを増し、野生動物は活発になり、キャニオン全体が生き返る。公園のあちこちでペイントブラシをはじめとするさまざまな野花が咲き乱れる。
夏は木々が濃い緑と化し、色鮮やかに咲くサボテンは6月にピークを迎える。秋になるとキャニオン全体が紅葉する。楓やもみじ系の赤い葉は一般的に10月の中旬がピークであり、黄葉するコットンウッド(北米産ヒロハハコヤナギ)は11月初旬がピークになる。紅葉、黄葉が長い間にわたって楽しめるのもザイオンの魅力の一つだ。
冬も見逃せない。標高の高い部分には積雪もあり、赤い岩肌と白い雪のコントラストがこれまた素晴らしい。ザイオンはグランドサークルの中にあって、最も四季を感じさせてくれる素晴らしい国立公園だ。
ハイキングで堪能するザイオン
ザイオンの中核はザイオンキャニオンと呼ばれる部分だ。そのキャニオンの谷底に12kmにわたって観光ルートが設けられている。両側に700m前後の垂直に切り立つ岩山が続く景観には圧倒される。ザイオンが国立公園に認定される前は、ムクントゥウィープ(Mukuntuweap)国立モニュメントと呼ばれていた。
ザイオンキャニオンの真の魅力を堪能するにはハイキングに限る。ただ車窓から景色を楽しむだけでは、その魅力を到底理解することはできない。
ザイオンには老若男女誰もが楽しめる初級から中級のハイキングコースが豊富にある。そしてそのほとんどがザイオンキャニオンに集中している。
ザイオンのハイキングが面白いのは、同じキャニオンをまったく違う角度から見直せるところにある。谷底を流れるバージン川に沿って歩けば、水の音と木陰に包まれた柔らかなザイオンに出会う。少し高い場所へ上がれば、さっきまで自分が歩いていた谷筋が足元に細く伸び、岩壁の大きさが一段と実感できる。さらに展望地に立つと、キャニオン全体がひとつの地形として見えてくる。
つまりザイオンでは、長い距離を一気に歩くことだけが楽しみ方ではない。短いトレイルをいくつか組み合わせ、川沿い、岩壁の足元、展望ポイントというように視点を変えていくことで、限られた滞在でも公園の奥行きを感じられる。初めて訪れるなら、まず歩きやすいリバーサイドウォークやパルーストレイルで谷の空気に慣れ、そのうえでエメラルドプールやキャニオンオーバールックなどを組み合わせると、ザイオンらしい変化を無理なく味わえる。
リバーサイドウォーク
シャトル運行期間中は、ビジターセンターからザイオンキャニオンの一番奥にあるテンプル・オブ・シナワバまで移動する。リバーサイドウォークはここからさらにキャニオンの奥に入って行くトレイルだ。往復約3.5km、高低差は少なく、ほぼ平坦なトレイルで誰でも自分のペースに合わせて楽しめる。バージン川に沿って川のせせらぎを聞きながら進み、夏でも快適に歩きやすい。
ナローズ
リバーサイドウォークの終点の先は、バージン川と両脇に垂直に切り立つ岩山だけとなる。ここからがナローズと呼ばれる、川自体がトレイルとなる部分だ。滑りにくい閉じた靴とウォーキングスティックの使用が推奨される。水量が高い場合や鉄砲水警報時には閉鎖されるため、出発前に必ず最新の水量と天候を確認したい。キャニオンは徐々に狭くなり、見上げると垂直にそびえ立つ岩山の間に小さな空が見える。奥へ奥へと引き込まれていく、ザイオンならではのハイキングコースだ。
エメラルドプール
ザイオンロッジからシャトルが走る道路を渡った橋の所から始まる。このコースにはローワー、ミドル、アッパーと呼ばれる3つのプールがある。ローワープールまでは片道約1kmで高低差は約20m。アッパープールまで行くと、3つのプールのうち最も大きなプールに到達する。全てを歩くなら3時間みれば良い。
パルーストレイル
ビジターセンターとキャニオンジャンクションを結ぶ片道約2.8kmのトレイルで、ザイオン国立公園の中でも整備されており、歩きやすいトレイルである。トレイルの幅も広く、サイクリングにも適している。ザイオンキャニオンに入る手前の開けた部分を歩くため、360度の景観を楽しめる。
エンジェルスランディング
エンジェルスランディング(天使の舞い降りるところ)と呼ばれるこのトレイルは、中級者向けのもので、しっかりとした準備と心構えを必要とする。グロットから始まる片道4.3km、高低差453mのトレイルだ。スカウトルックアウトから頂上までの800mがチャレンジで、足元を見ると同時に谷底も見える。現在、スカウトルックアウトより先の鎖場へ進む場合は、事前に許可証が必要となる。難所を克服すると、まさに「天使の舞い降りるところ」に辿りつく。
ナローズやエンジェルスランディング、オブザベーションポイントなど一部のハイキングは、天候・水量・許可制度・道路状況によって条件が変わる。特にナローズは水量上昇時や鉄砲水警報時に閉鎖され、エンジェルスランディングはスカウトルックアウトより先へ進む場合に許可が必要となる。出発前には必ずビジターセンターや国立公園局の最新情報を確認してほしい。
ザイオン周辺の宿泊事情
ザイオンには最低2泊して、その魅力を堪能して頂きたい。ザイオンは宿泊施設に恵まれている。国立公園内にはザイオンロッジがあり、南ゲートに隣接するスプリングデールの街にも多くの宿泊施設及びレストランがある。更にスプリングデールから南西へ約1時間の所にセントジョージという南ユタ最大の街があり、ここには更に多くのホテルやレストランがある。
ザイオンの魅力を見直してみよう
ラスベガスに近いことから、ザイオンでは宿泊せずに数時間の観光だけで済まされてしまう傾向にある。しかし、ザイオンは多彩な顔を持ち、アメリカの大自然を象徴する国立公園のひとつであるということを忘れてはならない。ザイオンではしっかりと足を地につけて、その魅力を充分堪能して頂きたい。
ザイオン写真ギャラリー
星野修氏ご本人が撮影した、ハイキング、動物、花の写真。
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