日本に「グランドサークル」を初めて紹介した第一人者
星野 修氏 特別寄稿
特別寄稿者プロフィール
星野 修(ほしの おさむ)
アメリカ西部5州政府観光局 元局長
(ユタ州・アリゾナ州・ニューメキシコ州・ワイオミング州・サウスダコタ州)
日本全国の旅行会社や旅行業界関係者を対象とした大規模セミナーを長年にわたり開催。日本に「グランドサークル」という旅の概念を初めて紹介し、その活動によって「グランドサークルの旅」を日本の旅行市場に確立した第一人者である。
1967年に渡米。大学では商学部マーケティングを、大学院では行政学を専攻。卒業後はユタ州政府立法府にて財務分析官として予算法案の作成に携わり、その後、ユタ州政府経済開発省国際部ディレクター、ユタ州政府観光局副局長として国際マーケットの開発に尽力した。
その後、ロッキー山脈周辺6州政府観光局の日本地区代表を務め、アメリカ西部5州政府観光局長に就任。ユタ州、アリゾナ州、ニューメキシコ州、ワイオミング州、サウスダコタ州を中心に、長年にわたりアメリカ西部の観光振興に従事。
日本の旅行業界でアメリカ方面に携わる人であれば、誰もがその名を知り、一度はその指導や支援を受けたといわれるほど、業界に大きな影響を与えてきた存在。日本におけるアメリカ西部観光、そして「グランドサークルの旅」の礎を築いたパイオニアである。
星野 修氏による特別寄稿
My Sedona
自分だけのセドナを見つける旅
セドナをひとことで説明するのは難しい。アリゾナ州の赤い岩に囲まれた小さな町でありながら、訪れる人によってまったく違う表情を見せるからだ。大自然を歩きたい人にはレッドロックのトレイルがあり、静かに自分と向き合いたい人にはボルテックスがある。アートを楽しみたい人にはギャラリーがあり、少し足を延ばせばベルデバレーのワインカントリーも待っている。
セドナ観光局が掲げてきた「My Sedona」という言葉は、この町の本質をよく表している。誰かが決めた正解をなぞるのではなく、赤い岩、ボルテックス、ハイキング、アート、ワインの中から、自分にとってのセドナを見つける。あなた自身のセドナを見つけに行くことこそ、この町を旅する面白さである。
セドナの面白さは、「パワースポットの町」だけでは語りきれないところにある。4大ボルテックスを訪れる人もいれば、トレイルからそれらを遠くに眺める人もいる。朝食前にジョギングやトレイルランで一日を始める人、ギャラリーで作品と出会う人、ベルデバレーのワインを楽しむ人、さらにジェロームやプレスコットへ足を延ばす人もいる。小さな町でありながら、過ごし方の幅が驚くほど広い。それが「My Sedona」という言葉に込められた魅力なのだろう。
赤い岩がつくる特別な風景
セドナの第一印象は、やはり赤い岩である。町に近づくにつれて、地平線の向こうに赤褐色の岩山が現れ、やがてベルロック、キャセドラルロック、コートハウスビュートといった特徴的な地形が視界に入ってくる。朝日や夕日の低い光を受けると、岩肌は赤からオレンジ、さらに深い紫がかった色へと変わり、時間そのものが風景を塗り替えていくようだ。
セドナの魅力は、ただ眺めるだけでなく、その景色の中へ簡単に入っていけることにある。車で少し移動すれば展望地に立てるし、短いトレイルを歩くだけでも岩壁の大きさや砂漠の香りを体で感じられる。グランドキャニオンのように巨大な峡谷を見下ろす感動とは違い、セドナは赤い岩の世界に包み込まれるような親密さがある。
セドナを象徴する4大ボルテックス
セドナが世界的に知られる理由のひとつが、ボルテックスである。科学的に証明されたものというより、土地のエネルギーを感じる場所として語られてきた存在だが、実際にその場所に立ってみると、なぜ多くの人がここに惹かれるのかは理解できる。強い日差し、静かな風、赤い岩、曲がりくねったジュニパーの木。そのすべてが重なって、ほかの観光地とは違う時間が流れている。
一般的にセドナの4大ボルテックスとして知られているのは、キャセドラルロック、ベルロック、ボイントンキャニオン、エアポートメサである。信じるかどうかは別として、これらはいずれも景観として非常に優れた場所であり、初めてセドナを訪れるなら旅程に入れておきたい。
セドナでは、地元の人が「私のボルテックスはここ」と表現することもある。つまり、誰もが同じ場所で同じように何かを感じるわけではない。名所として知られる場所だけでなく、ふと足が向いた岩陰や、森の中の静かな一角、夕方に空を見上げた場所が、その人にとって特別な場所になることもある。
頬をなでる風、鳥の声、森の香り、月光、あるいは力強い太陽の光。そうした五感で受け取る小さな感覚が、自分を見つめ直すきっかけになる。セドナの究極の楽しみ方は、有名なボルテックスを巡ることだけではなく、自分にとっての「私のボルテックス」を見つけることなのかもしれない。
歩いて味わうセドナ
セドナを本当に楽しむなら、車窓から眺めるだけではもったいない。レッドロックカントリーには多くのハイキングトレイルがあり、短時間で歩けるものから、半日かけてじっくり楽しむものまで選択肢が広い。ベルロック周辺のように比較的歩きやすい場所もあれば、キャセドラルロックのように岩の斜面を登る場所もある。
セドナ周辺には数多くのハイキングトレイルが張り巡らされている。4大ボルテックスそのものを目指す歩き方だけでなく、少し離れた場所から赤い岩山を眺めるトレイルも多い。遠くにキャセドラルロックやベルロックを見ながら歩くと、ひとつの岩だけではなく、セドナ全体の地形の広がりを感じることができる。
セドナのトレイルの良さは、距離よりも変化にある。少し歩くだけで町の音が遠ざかり、赤土の道、ジュニパーの木、サボテン、巨大な岩壁が身近になる。乾いた空気の中で足を止めて振り返ると、先ほどまで車で通っていた町が、赤い岩に抱かれるように見える。その瞬間、セドナは観光地ではなく、自分の足で入っていく場所になる。
トレイルの途中で感じる風、鳥のさえずり、岩肌に反射する光。そうした小さな体験が積み重なると、名のついたボルテックスだけではなく、自分が心地よいと感じた場所そのものが、自分にとってのセドナになっていく。
セドナ周辺の多くのトレイルヘッドでは、駐車にRed Rock PassまたはAmerica the Beautiful Passが必要になる場合がある。混雑する人気トレイルでは駐車場が早く埋まることも多いため、出発前に最新情報を確認したい。
走って楽しむセドナ
セドナは歩くだけでなく、走って楽しむ町でもある。朝食前に軽くジョギングをしたり、レッドロックの景色を眺めながらトレイルランをしたりするだけでも、旅の一日はまったく違うものになる。
セドナでは毎年2月に「RunSedona」が開催され、ハーフマラソン、10K、5K、5Kウォークなどのレースを通して、赤い岩の景観を楽しみながら走ることができる。大会日程や開催内容は年によって変わるため確認が必要だが、「走る」という視点を加えると、セドナの景色はより身体に近いものとして残る。
アートの町としてのセドナ
セドナは自然だけの町ではない。赤い岩に囲まれた景観は多くのアーティストを惹きつけ、町にはギャラリーや工房、アートショップが点在している。絵画、彫刻、ジュエリー、ネイティブアメリカンの伝統に影響を受けた作品など、店をのぞくだけでもセドナの文化的な顔が見えてくる。
特にトラケパケ・アーツ&ショッピングビレッジ周辺は、セドナらしい雰囲気を楽しめる場所である。スペイン風の中庭、木陰、石畳の通路を歩きながら、自然の景色とはまた違うセドナの時間を過ごせる。ハイキングで汗をかいた午後に、ギャラリーを巡りながら静かに過ごすのも、この町らしい楽しみ方だ。
セドナは、人々に創造力やひらめきを与える場所でもある。町には多数のアートギャラリーやショップがあり、土地の色、光、先住民文化、スピリチュアルな雰囲気に影響を受けた作品が並ぶ。毎月第1金曜日に開かれるギャラリーイベントに合わせて歩けば、作家やギャラリーの空気に直接触れられる。作品を買うかどうかに関係なく、セドナのもうひとつの表情を知る時間になる。
ベルデバレーのワインカントリー
セドナ周辺で近年注目されているのが、ベルデバレーのワインである。セドナからコットンウッド、コーンビル、ペイジスプリングス、ジェローム方面へ足を延ばすと、テイスティングルームやワイナリーが点在している。乾燥した気候と標高の変化を生かしたこの地域のワインは、アリゾナの新しい魅力として知られるようになった。
セドナやベルデバレーは、新しいワインカントリーとして注目されている。ワイン用のぶどうは、肥沃すぎない土地、排水のよい痩せた土壌、乾いた空気に向くといわれる。セドナ周辺の気候と地形は、ワインメーカーにとって魅力的な条件を備えている。
2021年にはベルデバレーが正式にAVA(American Viticultural Area)として認定され、アリゾナのワイン産地としての存在感も高まっている。セドナ滞在に1日余裕があるなら、赤い岩の景色とあわせてワインカントリーを訪れるのも面白い。
ワイナリーを巡るツアーに参加してもいいし、気に入ったボトルを買って、夕方にリゾートやレストランでゆっくり味わうのもいい。赤い岩に夕日が差す時間にグラスを傾けると、それもまた「私のセドナ」と呼びたくなる過ごし方になる。
周辺の町へ足を延ばす
セドナの旅は、周辺の町と組み合わせることでさらに立体的になる。たとえばジェロームは、かつて鉱山町として栄えた丘の上の町で、現在はアートギャラリーやテイスティングルームが並ぶ個性的な場所になっている。ミンガスマウンテンの中腹にあり、「シティ・イン・ザ・スカイ」と呼ばれることもある町だ。細い道と古い建物、遠くに広がるベルデバレーの景色が、セドナとは違う味わいを見せてくれる。
ジェロームでは、第1土曜日のアートウォークと、セドナの第1金曜日のギャラリーイベントを組み合わせて楽しむこともできる。曲がりくねった道を走りながら、赤い岩、緑の谷、古い鉱山町、ワインのある町へと景色が変わっていく。その変化こそ、ベルデバレー周辺を旅する面白さである。
プレスコットも興味深い。アリゾナが州になる以前、準州時代の州都が置かれた歴史ある町で、現在もダウンタウンには当時の面影を残す建物が多い。裁判所広場を中心に、ウイスキー・ロウやグッドウィン通りを歩くと、アメリカ西部の古き良き時代へ入り込んだような感覚になる。セドナからは南西へ約1時間半。自然だけでなくアリゾナの歴史に触れたい人には良い寄り道になる。
キャンプベルデ方面には、古代の住居跡や自然体験型の施設があり、さらにクラークデール方面へ行けば、ベルデキャニオン鉄道のように車窓から渓谷美を楽しむ旅も考えられる。赤い岩の景色、ワイン、歴史ある町、列車の車窓を組み合わせると、セドナ滞在は単なる観光ではなく、アリゾナ中北部を味わう旅へと広がっていく。
キャンプ・ベルデには家族で楽しめるサファリパークや、ヤバパイ・アパッチ族にゆかりのあるリゾート施設もあり、夜まで活動的に過ごしたい旅行者にも選択肢がある。セドナを拠点にしながら、日中は大自然、夕方はワイン、夜は周辺の町で過ごすという組み合わせもできる。
レンタカーで地元の音楽を聴きながら、起伏に富んだ道を走る時間も忘れがたい。車窓の前を流れていくレッドロック、緑の谷、高地砂漠の風景。帰国後にその時聴いていた音楽を耳にすると、セドナの景色が自然と目に浮かんでくる。そんな記憶の残り方もまた、旅先としてのセドナの魅力である。
自分だけのセドナを見つける
セドナには、誰にでも同じように勧められる一つの正解はない。朝日を浴びるキャセドラルロックに感動する人もいれば、ボイントンキャニオンの静けさに惹かれる人もいる。ハイキングで汗を流すのが好きな人もいれば、ギャラリーやワインをゆっくり楽しむ時間に満たされる人もいる。
だからこそ、セドナは何度訪れても新しい。赤い岩は同じ場所に立っているのに、季節、天気、時間、そして旅する人の気持ちによって見え方が変わる。セドナを旅するということは、名所を消化することではなく、自分に響く場所を探すことなのだ。
家族で訪れれば「我が家のセドナ」が見つかり、仲間と旅すれば「我々のセドナ」が見つかる。ひとりで訪れれば、今の自分が必要としている静けさや刺激に出会うかもしれない。セドナは、何日いても、何回来ても、その時々の自分に新しい何かを与えてくれる不思議な場所である。
その言葉どおり、セドナにはきっと、あなた自身のセドナがある。
星野修氏撮影 セドナギャラリー
赤い岩の迫力、町の表情、静かな水辺。星野修氏が撮影した写真から、セドナらしさが伝わるものを選んだ。
※弊社ツアーでは、許可を必要とするガイド付きハイキングのご案内は行っておりません。記事内のハイキング情報は、セドナでの過ごし方をご紹介する観光情報として掲載しています。
セドナを旅程に取り入れたい方へ
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